バラの栽培装置(地上環境編)

本項では商業用バラ栽培温室に設置される装備、ガラス温室、ヒートポンプ、二酸化炭酸ガス発生機、内部カーテンにまつわるお話をしています。

ガラス温室 -バラの園はガラス張り-

   商業用バラ栽培はガラス温室などの施設内で行われます。日本で最初にバラの温室栽培が行われたのはなんと明治40年、新宿御苑といわれていますのでずいぶん長い歴史がありますね。ガラス温室のほかフィルム温室でも栽培は行われ、全国的に見ると栽培面積はガラス温室1:フィルム温室2となっています。バラはいったん定植すると長期間の栽培が続きますので、フィルム温室の場合も農ビ(農業用塩化ビニール)や農PO(農業用ポリオレフィンフィルム)ではなく、フッ素樹脂フィルムや農業用ポリエステルフィルムを使用します。
   数年前のデータになりますが、平成20年7月1日~平成21年6月1日の栽培面積と収穫本数は下表の通りです。

バラの施設栽培面積(全国)と収穫本数
(平成20年7月1日~平成21年6月1日)
ガラス温室の栽培面積155.6万㎡収穫本数1億3112.4本
ガラス温室以外の栽培面積290.3万㎡収穫本数2億6325.3本
合計445.9万㎡合計3億9437.8本

農林水産省「園芸用施設及び農業用廃プラスチックに関する調査」より

左の写真の温室は商業用温室を全国的に販売している株式会社大仙のガラス温室です。

左の写真の温室は愛知県豊橋市に本社があるイノチオアグリ株式会社のガラス温室ではない、軽量H型鋼を主骨材とした大屋根型ハウスです。バラ栽培用被覆材としてはポリエステル系フィルムのほか、経年変化によって光の透過率が低下しにくいフッ素樹脂フィルム(商品名エフクリーン®、AGCグリーンテック株式会社)も使用されます。

ヒートポンプ -暖房も冷房も除湿もできちゃう-

   バラの生育適温は昼温25℃内外、夜温は16~18℃です。 花に成長する花芽は16℃以上でないと育たないため、冬場には暖房機で温室を暖房します。
   暖房機はこれまでA重油を使うボイラーが一般的に使用されてきましたが、重油価格の高騰により、電気で暖房する「ヒートポンプ」という装置を導入する農家さんが増加し、 国内のバラ生産施設の40%の面積にヒートポンプが導入されているとのことです。ある試算によるとA重油が1リットル70円の場合、年間の暖房費は20%削減できるそうです。ここ数年はA重油の価格が下落傾向にあるため、暖房費削減という観点だけで考えるとヒートポンプだけで暖房を行うことは少々厳しいかも知れません。重油燃焼式ボイラーとヒートポンプを併用する農家さんも多いようです。
   ヒートポンプ導入のメリットは費用の観点以外では以下の2点です。

  1. ヒートポンプは冷房もできるので、夏場には夜間の冷房を行って 夏の暑い時期に切りバラを出荷する栽培形態も多くなってきました。一般的にヒートポンプの容量は真冬の暖房用途を基準に選定され、夏の昼間の冷房に対しては能力不足になるので 夜間だけ冷房します。
  2. ヒートポンプは除湿もできるので、多湿状態で発生しやすいバラの病気、ベト病や灰色かび病を予防することができます。温室栽培では農薬は人の手によって散布されることがほとんどですから、少しでも農薬の量を減らせれば人間にとっても良いことではないでしょうか。

二酸化炭酸ガス発生機 -光合成促進で収量アップ-

   地球温暖化の原因として悪玉呼ばわりされることが多い二酸化炭素。しかし二酸化炭素は植物の光合成には無くてはならない大切なガスです。空気中の二酸化炭素ガス濃度は約380ppmですが、一般的な作物は二酸化炭素ガス濃度を空気中より高くすると光合成をたくさん行ってくれます。バラ栽培に限らずトマトやイチゴなどの温室・ハウス栽培では炭酸ガス発生機が使われることがあります。この装置を「光合成促進装置」と呼ぶメーカもあります。
   二酸化炭酸ガス発生機の仕組みは灯油かプロパンガスを燃やして、そのときに発生する二酸化炭素を放出するものがほとんどです。まんべんなく二酸化炭素を温室内に拡散させるため、発生機と連動して暖房機の送風ファンだけを回したり、天井部分に取り付けた撹拌ファンを回します。昼間は温室の窓を換気のために開けることが多いので、窓が開いていたら発生機の運転を中止したり、設定濃度を空気中と同等レベルに低くしたり、といった制御方法が取られます。設定濃度は光合成が盛んな温度帯では800ppm程度にされることが多いようです。 左の写真はネポン株式会社 光合成促進機 グロウエアです。

カーテン -緻密に開け閉めするんです-

   一般住宅でもガラス窓には布地のカーテンをつけることが多いように、バラ栽培温室でも必ずカーテンが屋根の下と温室壁の周囲四方内側にぐるりと設置されます。ただし素材は布地ではなく、いわゆるビニールフィルムです。カーテンは保温目的の他、昼間の日差しを緩和する遮光目的でも使用されます。
   温室の屋根の下には通常2層のカーテンが設置され、上層(天井に近い層)は遮光用のフィルム、下層は保温用のフィルムを使用します。

温室用カーテン向けフィルムの種類
材質・用途用途等
農ビ(農業用塩化ビニール) もっともポピュラーな保温用の透明ビニールです。農ビにも複数の種類があるので、カーテンには必ず内張り用の農ビを使用します。厚さは0.05mmや0.075mmなど。経年変化で透明度が落ち劣化もするので1~3年で張り替えします。
主な
商品名
シーアイ化成:サラットらくらくスカイエイト
三菱樹脂アグリドリーム:カットエース®,カーテンラクダ®,カーテンサンホット™
農PO(農業用ポリオレフィンフィルム) 保温用の透明ビニールです。農ビよりも強度があり、経年変化による透明度の低下が農ビよりも少ないのが最大の特徴ですが、3~5年で張り替えます。
主な
商品名
三菱樹脂アグリドリーム:快適空乾®
みかど化工:みかど長寿
遮光カーテン 遮光を目的としたカーテン。ただし夜間も保温目的で展張されます。透明部(ポリエステル,PVA)とアルミ蒸着フィルム(ポリエステル,ポリエチレン)を縞模様(ストライプ)に構成させたカーテンがもっともポピュラー。
主な
商品名
ダイオ化成:ダイオネット
誠和。:LSスクリーン
保温遮光兼用カーテン 保温と遮光の両目的で使用。
主な
商品名
小泉製麻:ビーナスラッセル
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